研究概要 |
目的:直立時の平衡能力と転倒発生の危険率との関係を調べ,直立時の平衡能力の測定による高齢者転倒発生の危険率の予測の有用性を検討した.方法:51名の健常高齢者がこの実験に参加した.身体動揺時間(TST)は安静直立時身体左右方向への揺れの角速度の逆数として定義した,単位はms/mmである.直接測定により得られた値はTSTr(開眼時),また,被験者の身長,年齢と体重を変量としてシミュレーションを行なって得られた値はTSTeoである. TSTr/TSTeoは被験者直立時の平衡能力を表す指標で,Rfとして定義した.過去15年間の被験者転倒発生の回数,骨折の有無による転倒の危険率を定量的に評価した(Df).fD値が高いのは転倒発生の危険性も高いことを意味している.結果:TSTeo値はTSTr値と非常に近似していたが,検定で有意差はなかった(P>0.05).しかし,それらの分布は,1)TSTr値はTSTeoより大きい,2)TSTeo値と等しい,3)TSTeoより小さいの3つのパターンに分けられた.Rf値の平均は1.03±0.22で,その範囲は0.57から1.50であった.51人のうち,30人が転倒を経験し,それらの10人が転倒により骨折を経験した.転倒の発生率は58.8%で,骨折は19.6%であった.Df値の平均は0.37±0.19であった.Df値が0.53より大きい10人の被験者は,すべてRf<1.12の線より下に位置していた.RfとDfとの関係をChi-square testで検定した結果,Rf<=1.12時のDf値はRf>1.12時のDf値より高いことが判明した(p<0.05).結論:安静直立時の身体動揺による高齢者の転倒発生危険性を予測するのは可能であることが強く示唆された.
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