研究概要 |
立位時の姿勢維持が可能となったのはヒトの脳の発達により、運動制御機能の進化の結果であると考えられる。しかし、脳は如何に身体をコントロールして平衡を可能にしているのか、あるいは如何に視覚等の影響をうけているのかは重要な問題である。本研究ではPID(比例、積分と微分)制御モデルを用いて立位姿勢時の平衡維持を解析し、異なる視覚刺激パターン条件下で、平衡維持における視覚の影響を検討した。10人の健常な若年者(男性4名、女性6名、平均年齢37.7±7.21)に対する立位姿勢時の左右方向の身体動揺を計測した。身体動揺は、被験者の背部に貼付した黒点をCCDビデオカメラで連続30秒撮影し、この円の中心をコンピュータで自動的に認識・追跡して動揺状態を解析した。身体動揺を示す指標である、TSSxは高さ1mに換算した身体動揺角速度である。足関節と腰関節の回転はほぼ同じ振幅、逆フェーズで運動することに基づき、多リンク系の倒立振子モデル(一リンク倒立振子と等価)を構築した。被験者の体格によりモデルのパラメータを決定し、立位姿勢時のKD、KPとKIを同定することが可能となった。その結果、開眼時と比べ、閉眼時のKD値が有意に減少することが判明した(開眼時は131.5±37.6Nms/rad,閉眼時は90.4±26.0Nms/radであった、P<0.001)。身体動揺のシミュレーションには、KD値を下げていくと閉眼時の特徴的な身体動揺曲線が得られた。結論として:1)立位姿勢時の身体動揺はPID制御で記述することが可能である。2)視覚によりバランス制御の影響はダンプ係数(KD)の低下で説明することが出来る。3)立位姿勢時の平衡維持における前庭感覚、視覚と固有感覚のフィードバック制御は鉛直方向付近では線形化することが可能であると考えられる。これらの結果から、新たな平衡機能評価の手段を確立することが出来、高齢者の転倒予防等への応用が期待される。
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