研究概要 |
本研究は,二つの介入研究から成り立っている.一方は,生活習慣病の危険因子を持つ農山村地域の高齢女性(65〜76歳)を対象に,各自に適切な運動処方を行い,それを日常生活の中で行うように支援していくことで,健康増進効果(危険因子の改善や身体機能の向上)を上げようという目的で行った.期間は2年間であった.その結果,高血圧,高脂血症,高血糖の危険因子を軽減できること,身体機能の向上が期待できることが立証された.もう一方は,脳血管障害(CVD)慢性期の中等度障害者を対象に,自治体の施設を利用し,主に水中運動を中心とした機能回復訓練を,週1回の頻度で2年間継続した.その結果,関節拘縮緩和による柔軟性の向上,筋力の回復やそれに伴う神経筋協応能の改善を示唆するような身体機能の改善が統計的に有意に認められた.また,ADLの改善にもつながり,生きがい感の向上や健康不安の軽減に好影響を示し,QOLを高める効果があったことが示唆された. 現在多くの地域で様々な運動支援が行われているが,「多額の費用を要する事業」や「大掛かりな器具を要する方法」が推奨されている.そのような方法が効果を上げるとする風潮は,マンパワーや経済支援の不足しがちな農山村地域では取り入れることが困難となるばかりである.現代社会の慢性的運動不足状態は,スポーツやトレーニングの実施者の減少ではなく,機械化や交通発達により日常生活の身体活動量が減少したことにあり,日常生活の中で,だれでも簡単にできる身体活動を,個々に適した運動処方によって,実践に結び付けることの支援こそが重要であることが明らかとなるはずである.本研究で痛感した事実は,「どんな運動が適切か」ではなく,「できるものは何か」「いかにそれを継続できるか」ということである.
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