研究課題
中国医学の推拿療法ついて、単穴への刺激を中心とした内関に関する生理学的研究はほとんどみられない。本研究では、内関推拿刺激が生体に対してどのような影響を及ぼすのかを検討した。被検者は、18歳〜23歳の男子大学生10名とし実験の趣旨を説明し参加に同意を得た。また、メディカルチェックにより全員が健康状態にあることを確認した。基礎検査は、まず被検者に安静椅座位5分間の心拍数と酸素摂取量を測定し、その後、トレッドミルで漸増負荷法により酸素摂取量、心拍数、換気量、呼吸数及び主観的運動強度をExhaustionに至るまで行なう運動負荷検査を行なった。実験は、安静時(5分)、80%HRmaxの運動負荷(18分)、回復期(20分)とし、被検者には、推拿無刺激時と推拿有刺激時の条件でそれぞれ2回ずつ行った。推拿刺激は、強度約1.5kg、頻度120time/minの栂指按揉法で左上肢の内関穴に行った。血中乳酸は、運動負荷前後及び回期の10分後・20分後に指尖部より採血を行い測定した。安静時における推拿刺激は無刺激時に比べて心拍数、乳酸値および血圧等の有意な減少が認められた。このことから、内関穴への推拿刺激は生理機能に対して何らかの作用を及ぼしていることが明らかとなった。特に、心拍数については、推拿開始後の1分間の減少が最も顕著であり、刺激中の3分間に有意差が認められた。これにより、内関穴への推拿刺激は、刺激直後にその効果が現れ、即効性をもつことが明確となった。回復期20分後の血圧が無刺激時の安静時より有意に減少したことから、回復期の内関穴への推拿刺激が運動負荷によって上昇した血圧の回復に有効であることが示唆され、内関穴への推拿刺激が血圧を降下させる治療法となりうることが推察された。