群馬県中之条町の65歳以上の住民約5000名を対象に研究を行った結果、高齢者の健康保持に最適な身体活動の量(1年間以上、毎日、終日の測定に基づく平均1日歩数)と質(健康によいと考えられている、安静時代謝の3〜6倍の活動に費やされる時間)が明らかになった。例えば、高齢者において、鬱や動脈硬化の予防、QOL(生活の質)の保持など、「こころの健康」を保つには平均1日歩数が約4000歩以上であればある程度の効果が得られるが、一方、歩行機能や骨密度、糖尿病など、筋の機能や代謝などに強く依存する「からだの健康」には量よりも質の高い身体活動が必要であること、加えて、いずれの場合も至適身体活動を基準に日間および季節間変動は小さいほうがよいことが分かった。また、これらの健康指標に関して、家事などの低強度の活動が1日全体に占める割合が比較的少ない男性は「質」を、一方、それが比較的多い女性は「量」をそれぞれ目安に身体活動を処方したほうがよいことが示唆された。そして、このような健康保持における至適身体活動に及ぼす気象条件の影響について調べたところ、我が国の高齢者では、身体活動の量は降雨量の増加に伴い約4000歩まで著しく(指数関数的に)低下することが分かった。この歩数は日常生活を行う上で最低限必要な活動量であり、換言すれば、現在問題となっている「閉じこもり(+鬱・睡眠障害)」の客観的な指標・基準となり得ると考えられる。さらに、降水量1mm以上の日を除いて分析すると、身体活動の量は日照時間、風速、湿度よりも、気温や日長(日出から日没までの時間)、特に前者の影響を強く受けることが明らかとなった。また、17℃前後をピークに気温が高くても低くても歩数(活動の量)は減少するが、代償的に体動レベル(活動の質)は増加する(つまりエネルギー消費量は一定に保たれる)傾向にあることが示唆された。
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