研究概要 |
目的:本研究の目的は,地域在宅の自立高齢者の大規模集団を対象とした4年間にわたる栄養状態改善のための介入がその後6年間の生命予後に及ぼす効果を評価することにある。対象と方法対象は,秋田県南外村(現大仙市)在住の地域在宅高齢者である。栄養状態改善のための介入は,地域高齢者全体に対して1996年から2000年の4年間行った.介入終了後の健康状態の変化の観察は2006年までの6年間行った,分析対象は,1996年に対象地域に在住する高齢者を対象に実施された総合健康調査に参加した1021人(男性418人,女性603人)のうち,2000年と2006年の追跡調査に参加した者および転帰が確認できた者で構成し,分析数はデータの完備した629人(男性243人,女性386人)である。身体栄養改善の評価指標は血清アルブミンを用いた。1996年からの4年間の介入に伴う栄養改善の程度ごとに「維持・低下群」(血清アルブミン変化量25パーセンタイル値(P)0.0g/dL以下,166人),「やや改善群」(同変化量25P値0.00g/dL超,75P値+0.30g/dL未満,333人),および「改善群」(同変化量75P値+0.30g/dL以上,130人)の3群に区分し,介入後6年間(2000年-2006年)の生命予後を比較した。分析は,COX比例ハザードモデルを採用した.結果:得られた結果は以下のとおりである.1)分析対象の介入開始1996年時の平均年齢は男性70.8歳,女性71.2歳であった.2)分析対象全体で介入期間に血清アルブミン値平均は4.11から4.27g/dLに有意に増加した.3)介入開始前1996年の各群の血清アルブミン値は,「維持・低下群」4.18,「やや改善群」4.12,「改善群」4.00g/dLであり,「維持低下群」が最も水準が高く群間に性・年齢を調整しても有意な差が認められた,一方,介入終了時(2000年)のそれは,「維持・低下群」4.09,「やや改善群」4.31,「改善群」4.42g/dLであり改善群が最も高く,群間に有意な差が認められた.4)介入開始時(1996年),終了時(2000年)ともに,3群間に男女構成比,年齢,老研式活動能力指標総合点に有意な差は認められなかった.5)Cox比例ハザードモデル分析により各群の介入終了後2000年から2006年の6年間の総死亡リスクを比較したところ,「維持・低下群」を基準とした「やや改善群」と「改善群」のハザード比はそれぞれ0.69(0.42-1.12:95%信頼区間),0.47(0.24-0.90)であり,この数値は性,年齢,老研式活動能力指標得点(2000年時),運動スポーツ習慣,脳卒中既往,心臓病既往,糖尿病既往,喫煙習慣,飲酒習慣の影響を調整したものである.結論これら結果は,自立した地域高齢者の栄養状態を改善する介入が余命を伸長させ,老化を遅延させることを示している.加えて,介入による血清アルブミンの増加量が多い群ほど段階的に総死亡リスクが低下することを示しており,高齢者の栄養改善活動では可能な限り栄養状態を高める手立てが求められる.本研究により,報告者らが開発した栄養改善プログラムが高齢者の栄養改善を介した老化遅延に有効であることが実証できた.介入研究に基づいた検証を経た高齢者の介護予防「栄養改善事業」の基幹プログラムが確立した.
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