近年、セルロース系織物の防しわ・防縮・形態安定を目的とするDP(Durable Press)加工において、従来のホルムアルデヒドの代替としてポリカルボン酸を架橋剤に用いることが検討されている。本研究の目的は、ポリカルボン酸DP加工布の消費性能のうち、衣服管理において重要な、日常生活で発生する汚れの付着しやすさと家庭洗濯による汚れの除去されやすさについて検討することである。昨年度の研究の成果として、加工条件(架橋剤の種類と濃度、触媒添加量、キュアリング温度)や繊維基質の種類によって、DP性能をはじめとする物理的・化学的諸性質の異なる加工布が得られること、代表的な固体粒子汚れである酸化鉄に対する加工布の汚染性・洗浄性は未加工布とは異なることを明らかにした。今年度はこれらの結果をふまえ、洗浄条件(洗剤組成、洗浴pH、水の硬度)を変えて未加工布・加工布からの酸化鉄汚れの除去性を調べたところ、弱アルカリ浴や硬度成分共存下では加工布において洗浄性の向上が認められた。さらに、代表的な油性汚れである脂肪酸を用いて同様に加工による汚染性・洗浄性の変化を調べた。脂肪酸の付着や除去の程度は、ガスクロマトグラフによる定量から評価した。検討の結果、概して加工布は未加工布に比べて脂肪酸汚れが付着しやすく洗濯しても除去されにくい傾向が認められたが、酸化鉄汚れの場合のような顕著な違いは見られなかった。全体として、加工による布の表面特性の変化、とくにセルロースとの架橋反応に与らない未反応カルボキシル基の存在が、加工布の汚染性や洗浄性の変化に関与していることが推測された。
|