研究概要 |
本研究は日本と中国の中高年者の「自尊感情とディストレス」の様態を解明するものであり、自尊感情とディストレスに影響を与える諸要因をストレス研究の分析枠組みや測定尺度を用いて明らかにし、日本と中国の比較分析を行うことが主たる目的である。研究成果は次のとおりである。(1)日本人と中国人の自尊感情とディストレスを測定するための尺度を検討した。まず、自尊感情に関してはRosenberg, M.の尺度をベースにして、「建設的低得点」(ある種の前向きな態度が低得点へと導く)を克服する工夫をした。ディストレスについては抑うつを指標として採用し、Zung, W.W.K.のSDS(Self-reporting Depression Scale)を参考にして10項目を用いた。日本と中国において、4つの調査を実施した。(2)日本における中年期男女2400名を対象とした調査と高齢期男女3500名を対象とした調査から、次の結果が得られた。ディストレス得点の平均は中年期19.3点、高齢期17.9点であり、中年期のディストレスが有意に高いことが明らかになった。自尊感情得点には差がみられなかった。ディストレスの影響要因として、中年期と高齢期に共通する要因(「健康」「家計の状況」「自尊感情」など)とライフステージ特有の要因(「生きがい」「ソーシャル・サポート」など)を見出すことができた。(3)中国における高齢者380名を対象賭した調査では、日本調査と同様の尺度を用いてディストレスと自尊感情を測定することができた。中国調査の結果を日本調査の結果と比較すると、高齢者のディストレスに影響を与えている要因として、健康状態や経済状況は日本と同様に有意な影響を与えていたが、中国では世帯構成や親子関係などが影響要因となっていた点が異なる。(4)最後に得られた結果がどのような含意をもつのかを検討した。
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