われわれは3次元培養皮膚モデルを用いて、衣料品に関わる接触皮膚障害原因物質のヒト皮膚への反応に関する詳細なデータの蓄積を計り、皮膚刺激性物質と皮膚障害の関係を明らかにすることで、繊維に残存している皮膚刺激性物質の安全基準を確立することを目指した研究を行ってきた。 皮膚刺激性物質として、ホルムアルデヒド、各種界面活性剤、蛍光増白剤、市販柔軟剤、衣料用消臭剤、ドライクリーニング溶剤、分散染料などを用いた。さらに、抗菌性をもつポリエチレンイミンを固定化したポリエステル布の安全性確認をこの方法を採用して行った。 その概要は以下のとおりである。 (1)陰イオン界面活性剤の皮膚一次刺激性はアルキル基の炭素数に大きく依存しており、炭素数が9から12の範囲では添加濃度が0.5%以上で陽性を示す。炭素数が小さい場合や13以上では添加濃度が1%であっても細胞生存率は80%以上であり、陰性であった。非イオン界面活性剤では細胞生存率はエチレンオキシドの付加数にも大きく依存しており、付加数が小さいものや、アルキル基の炭素数が大きい場合では皮膚一次刺激性は小さくなる。陽イオン界面活性剤では低濃度の被験物質でも細胞生存率が小さく、皮膚一次刺激性は陽性を示す。 (2)抗菌成分を配合した市販柔軟剤での皮膚一次刺激性が大きい。柔軟剤自体の50%細胞生存率を与える添加濃度は0.5%である。布へ直接スプレーすることで消臭効果を示す消臭剤自体の50%細胞生存率を与える添加濃度は30%で、柔軟剤より高濃度である。綿布とポリエステル布を比較した場合、綿布のほうが被験物質の皮膚への移行が大きく、皮膚一次刺激性は大きい。毛・ナイロン繊維用蛍光増白剤は綿やポリエステル用のものより皮膚一次刺激性は高く、50%細胞生存率を与える添加濃度は0.5%である。 (3)ドライクリーニング溶剤での皮膚一次刺激性は繊維によって著しく異なる。石油系ベンジンの場合、綿が最も細胞生存率の低下が大きく、次いでアクリルであった。パークロルエチレンにおいても毛の細胞生存率の低下が見られた。 (4)ポリエチレンイミンを固定化したポリエステル布の人体への安全性の確認は三次元培養皮膚を用いた皮膚一次刺激性試験を応用して評価できた。
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