セレン(Se)は、グルタチオンペルオキシダーゼの構成元素であり、必須栄養素であるとされている。最近、疫学調査からその制ガン作用が注目されつつある。一方、マンガン(Mn)についても、ピルビン酸カルボキシラーゼの構成成分であり、種々の酵素の補因子として作用することから、栄養必須性が確認されている。しかしSeと同様に、in vivoにおけるその遺伝子発現に対する作用は、ほとんど明らかにされていない。本研究では、ラットの部分肝切除後の再生肝を用いて、微量栄養素であるSeと及びMnの生理作用が、遺伝子レベルで調べられた。 肝臓の細胞は通常、静止期にあるが、部分肝切除によって肝細胞を失うと、残存している細胞が増殖を開始し、もとの臓器量にまで回復する。ラットに肝部分(70%)切除を行い、肝部分切除直後にSe(1.5mg/kg b. w.)あるいはMn(3mg/kg b. w.)を腹腔内投与した。その結果、投与後4時間の再生肝において、アポトーシスが認められた。アポトーシスに先行して転写調節因子であるc-Junタンパクレベルの上昇が見られ、さらにリン酸化c-Junタンパクも、顕著に増加した。この増加は、JNK (Jun amino-terminal kinase)の持続的な活性上昇によるものであった。さらに、p53及び、p21 wafl/cip1タンパクレベルの上昇も認められた。即ち、微量栄養素であるSeあるいはMnは、JNKの活性化とc-Jun、p53、p21タンパクの上昇を伴って肝部分切除後の肝細胞(増殖細胞:がん細胞)にアポトーシス(細胞死)を誘導することが判明した。この結果は、微量栄養素であるSeあるいはMnが制ガン作用を有することを示すものであり、食事からの摂取がガン抑制に有効であることが示唆された。
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