研究概要 |
前回の報告では海藻から調製したchl a, bおよびcの脂質過酸化防止作用を検討し、chl aとchl cの強い活性を明らかにした。そこで本年度の研究では陸生植物の抗酸化活性をホウレンソウをモデル植物として検討し、緑色系植物の脂溶性成分の強い抗酸化性の主体はカロチノイド類ではなく、chl aであることを再確認した。次に、実際の調理・加工中に予想される加熱あるいは酸処理などを施したホウレンソウのchl類の動態をHPLC法で追跡し、同時に生成した各種のchl誘導体の脂質過酸化防止作用およびDPPHラジカル捕捉能を検討した。100℃加熱や酸処理によって生じたchl誘導体の抗酸化活性はネイティブなchlに比べて弱く、chl分子内のポルフィリン環に配位するMgが離脱したフェオフィチンなどのchl誘導体の活性は著しく低下していた。すなわち,フィチール基やMgが抗酸化性の発現に関与していることが示唆され、食用植物に過度の酸あるいは熱処理を施すことは不活性なchl誘導体を生じる危険性のあることが明らかとなった。一方、65℃で加温したホウレンソウの葉部では、活性化した酵素(クロロフィラーゼ)の作用でchlからフィチール基の離脱したクロロフィリドが多量に生成・蓄積された。このchl誘導体は、chl aよりも反応条件によっては強い抗酸化性を発現することが判明し、適切な調理を行うことで食用植物の抗酸化機能を強化できることが示唆された。
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