本年度、松王(研究代表者)の担当分野は、情報科学思想史のトピックを整理し、情報科学思想教育につながる論点を洗い出すことであった。これについて、次の5つの実績を挙げることができる。1)情報科学思想(「知の増幅」に関わる思想)のうち、特に重要と思われる近代ライプニッツのシステム思想を、現代のオートポイエーシス・システム論と絡めてその意義を検討し、口頭で発表を行った。2)同じく、「知の増幅」に関わる、現代のバーチャルリアリティ技術の思想について、特にその技術の歴史的意味を検討したポール・ヴィリリオやノルベルト・ボルツの考え方に対する批判的な検討を行い、雑誌に論文として発表した。3)技術社会思想の専門家であり、オンライン教育で実績を上げているアンドルー・フィーンバーグ(サンディエゴ州立大学)と、当研究に関わる研究交流を行った。4)技術者倫理の教科書の共同執筆を行う中で、リスク評価など、現在注目されるいくつかの技術思想がもつ、倫理的含意について検討を行った。5)準天頂衛星打ち上げに伴う「高度測位技術の普及」について、その社会的影響を科学思想的な立場で検討し、高度情報社会における倫理問題の概括を、フォーラムで行った。 また研究分担者の淺間の方は、まず年度計画のとおり、今年度夏季に渡欧し、フィンランド・ヘルシンキ大学のメディア・ラボの研究教育スタッフと再度研究交流を行った。この中で、情報倫理教育における情報科学思想教育を実践する可能性について、ヘルシンキ大学における現行の情報倫理教育カリキュラムと日本の情報教育カリキュラムを比較しながら意見を交換した。
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