現在、初等・中等教育においてなされている「情報モラル」教育は法令遵守および犯罪被害に遭わないための「安全教育」が中心である。本研究では、より広い「情報倫理」の教育という視点では、このような安全教育だけでは不十分で、情報科学思想において積み重ねられてきた積極的な社会構築ルールとしての倫理を盛り込むべきであるとの立場に立ち、そうした教材コンテンツづくりを最終的な目標にして、i)情報科学思想の整理、ii)思想の整理に基づく「積極的社会構築に役立つ情報倫理」の抽出、iii)このような情報倫理を応用すべき具体的な社会事例の検討、の順で研究を進めてきた。 まず、i)については倫理的側面をもつと考えられる情報科学思想を大きく二系統に分類、整理した。一つはインターネット構築へとつながるARPANETにおける、ネットワーク構築における柔軟な組織づくりに関する思想であり、もう一つはフリーソフトウェア・オープンソースソフトウェアの運動に見られる創造的生産のための情報共有の思想である。これら整理に基づいて、ii)として、「情報資源のネットーワーク構築に基づく新たな社会構築の倫理」と「共通志向をもち、データ蓄積を目的とする社会構築のための倫理」を抽出、整理した。最後に、iii)では、「市民電子会議室」「地域通貨」「遺伝子データバンク」を各関係地域への視察に基づいて、ii)の情報倫理の応用可能性を検討した。 最終的に、本研究が当初ねらいをつけた「情報倫理教育」の骨格はおおむね描き出すことができた。今後、この成果に基づく、より具体的な教材づくりのための研究を、他の情報倫理教育研究の成果と照らし合わせる中で行っていく予定である。
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