研究概要 |
密度測定による金属同定は,密度の測定値と文献値との比較によりなされる.測定値には測定誤差が含まれるため,測定値と文献値が一致するとは限らない.同定するには,同定可能な測定値の範囲(同定可能範囲)を設定する必要がある.同定可能範囲の設定のしかたは,同定のために参照する特定金属の密度(特定値)に依存するタイプ(特定値依存型)と,特定値と数値が隣接する密度(隣接値)に依存するタイプ(隣接値依存型)に区別できることが見出されている. 本研究の目的は,実験体験の有無,発問のしかた等,授業方法の違いが同定可能範囲の設定のしかたに及ぼす影響を明らかにすることにある.今年度の成果を以下に示す. 1.実験体験が同定可能範囲の設定のしかたに及ぼす影響を検討した.中学2年生を対象として,同定可能範囲についての質問紙調査の結果を実験前後で比較・分析した.その結果,隣接値依存型の同定可能範囲は,実験の際に不一致の程度が小さい測定値を得た体験により,隣接値への依存の度合いを弱めること,不一致の程度が大きい測定値を得た体験により,隣接値への依存の度合いを強めることを明らかにした. 2.学年進行による同定可能範囲の設定のしかたの変化を検討した.中学1年生から大学1年までの7学年を対象として,同定可能範囲を縦断的に比較・分析した.特定値依存型と隣接値依存型の人数比について,学年間に差はみられなかった.各学年ともに,「自信をもって何々だ」と結論する場合は1:1,「たぶん何々だ」と結論する場合は,隣接値依存型がふえ,1:3となった.また,特定値依存型と隣接値依存型の特性についても,学年間に差はみられなかった.同定可能範囲の設定のしかたは,中学1年生から大学1年生まで変化していないと結論した.
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