研究概要 |
2004(平成16)年度も,前年度に引き続き,主として量子力学の解釈問題の研究を継続した.科学的実在主義は,その時代に十分確かめられている科学理論が与える世界の描像を,客観的実在像として受容する立場である.通常,科学理論は,その理論に固有の世界描像とともに提出されるが,20世紀初頭に現れた量子力学理論は,描像なしに,あるいは少なくとも,整合的な描像に収束することなしに数学的フォーマリズムが提出された.このことは,科学的実在主義にとって看過できない事態である.なぜならば,それは科学的実在主義の是非を論じる前提そのものが失われることを意味するからである.量子力学の解釈問題の研究は,現在の数学的フォーマリズムをもとにして,量子力学に固有の描像を得ようとすることである.本研究代表者は,主として,場の量子論の様相解釈を検討する目的で,今年度も場の量子論の代数的体系について研究してきた.同時に,量子力学が扱う世界についてよく言われるように,世界が本質的に確率的である場合の,その世界についての認識が従わなければならない条件を考察した.この成果は,2004年6月の科学基礎論学会におけるシンポジウムのパネリストとして,また2005年1月の名古屋哲学会特別講演において,発表された.その一部は,『科学基礎論研究』に掲載される.他方,場の量子論における実在の問題は,いわゆる演算子の場を実在と見なすことができないという結果が,2004年10月の日本科学哲学会において発表された.場の量子論が与えるべき描像については,世界でも議論は収束する方向にはなく,本研究の結論もそうであったが,現在のフォーマリズムのもとでは,実在像を描くのに余り好ましくない結果が導かれているというのが,現状である.
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