申請者は、標記研究実施のため、連合王国(主にロンドン科学博物館図書館)で4回、フランス・パリ国立公文書館で1回の史料調査を実施した。また、ロンドン王立協会フック・シンポジウムでの発表を研究の中間段階で行い、その成果は、フック没300周年記念論文集に収められた。これらの経過で、残存実験機器の分析からフックの実験機器の起源を探求することは史料過多のため困難で、既存史料に収録された彼の時代の実験機器の解析およびこれと先行研究論文との対照に方向転換すべきこと、またその際に機器の素材となって行く真鍮技術への注目が重要であることが分かった。そして、この新たな方針に基づき追加的に史料を収集した。それらから判明したことは、フックが実験機器への使用に念頭に置いた真鍮素材は、連合王国では17世紀半ばまで大陸からの輸入が主であったこと。1650年頃から、大陸からの移民の職人によって技術が移転され、17世紀後半にブリストル近郊で国内での真鍮生産がようやく本格化したことである。連合王国の実験機器は、16世紀半ばに大陸からの移住者により作られ始め、彼らがアストロラーベ製作やエッチングといった金属関係の技術を得意とする航海器具職人であったこと、さらに、彼らが当初は変則的に食料雑貨商ギルドに所属し、時計職人ギルドの形成はようやく1631年であるという知見を合わせて考えると、フックの実験機器技術の起源は、研究開始前に予想したロンドンの時計職人の伝統よりは、むしろ大陸の航海術器具作製の伝統に直接に求めるべきことになる。
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