17-18世紀英国ではフィロマスという数学愛好家が数多く誕生した。本研究では、まず、資料収集からはじめた。数学愛好家の利用した雑誌や著作物をマイクロフィルムで海外から収集した。また極めて珍しい現物自体も古書で入手した。ついで、それらを分析解読し、次のような方法で研究を行い、その成果は次のようになる。(1)18世紀英国の数学愛好者層の成立を、大衆文化、印刷文化、ロンドン書籍組合の利権問題、余暇の利用、そしてニュートン主義の普及などの視点から考察した。(2)大衆数学雑誌の代表格である『レディーズ・ダイアリー』の成立および発展を18世紀英国の文化・社会の文脈の中で考察し、その影響を調査し、またそこに登場するアマチュア数学者を何人か特定した。(3)『レディーズ・ダイアリー』含めて当時の大衆数学にみられる具体的数学問題を、その種類(数論、流率法など)、解法(微積分を使用かどうかなど)、作者(アマチュア、女性など)によって分類した。そしてデータベース化するために入力を行った。(4)18世紀後期から19世紀初めの英国数学を、大学ではなくウーリッジ王立軍事アカデミーなどの軍事・海軍関係の学校を中心に分析し、新しい英国数学史記述の可能性を見出した。(5)ウーリッジ王立軍事アカデミーの数学教師チャールズ・ハットンに注目し、その後の大衆数学への影響を調査した。その影響は日本にまでも及ぶことになった。(6)英国大衆数学はその後アメリカにも影響を与え、ニューヨークでも大衆雑誌『アニュアル・フィロゾフィカル・マガジン』などで数学問題が議論されたことを明らかにした。(7)この研究を通じて、何のための数学なのかという問題を文化史的に考察した。
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