研究概要 |
1.橋本宗吉は『蘭科内外三法方典』(1805)で薬品の「アルコール」の呼称を音訳し、かつ「純粋酒精」と訳したのは、原本のW.van Lis,Pharmlacopoea...(1747)で"Alcohol,Zuivere Geest van Wyn"を訳したもので、アルコールの別記「酒精」の語の起源も明確にした。 2.宇田川榕菴が、1828年にJ.J.Plenck,Grondbegiselen der Scheikunde(1803)を全訳した稿本(『舎密加総論』)の対比をし、元素概念を確実なものにした過程をみた。反面「単元素」「複元素」の概念を得たため、原子概念を学習したときに、「元素」と「原子」の区別を理解しきれずに、「Atoom」は訳さず「元素」で置き換えるような思考にとどまった(2)。 (1)「元素」の語を造語するにあたり、榕菴は『榕菴随筆』(1823-9)で、「素字を「ストフ」ニ充る證」として「正字通云白練也又質素又器皿〓〓之樸日素俗作〓」として、「Stof」にあてる「素」について、中国の明代の辞書『正字通』の「素」の項目説明を引用して、意味を確かめて、「元行」の「行」にかわり「元素」の語が造語なされたことを再検討した。 (2)『榕菴先生和蘭遺書』の「Atoom」の項目は、Gt.Nieuwenhuisの百科事典Algemeen Woordenboek van Kunsten en Wetenschappenの1820年の「A-B」巻の"ATOOM"の項目の説明を写し、一部和訳したものである。榕菴は、ここで、原子概念を学習したが、「元素」と「Atoom」の区別を理解できず「Atoom」に対する訳語は造語しなかった。 3.竹原平次郎抄訳『化学入門』初編(1867)桂川甫策・石橋八郎訳・加藤宗甫訳『化学入門』外編後編1-10巻(1869-73)は、従来J.Girardinの蘭書(1851)からの訳であるといわれたが、それは、間違いで、今回は原本の一つC.R.Fresenius,Leerboek der Scheikunde,door F.A.Enkaar(1852)からの翻訳がなされている部分(後編第9巻)を対比し明らかにした。
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