研究概要 |
昨年度で終了したアル=カビースィーの『占星術入門』の校訂および英語訳作業に引き続き、16年度は「占星術師資格諮問」(The treatise on the testing of those who call themselves astrologers)の校訂と英語訳を中心に研究を行なった。アラビア語テキストの一部に不明な点がいくつか残ったが、大体においてテキストと英語訳が終了した。特に、序文部分はもっとも興味深い内容であるにもかかわらず、判読しにくい1種類の写本しか存在しないために、完全にそれを解明することはできなかった。しかし、アル=カビースィーを通じて、大筋においては当時の天文学者・占星術師の基本的な考え方を捉えることができたと思われる。 同著者の「惑星の距離と大きさについて」(Treatise on distances and bodies)という論文については、アラビア語テキストの校訂のみがほぼ完成している。これは明らかにプトレマイオスの『アルマゲスト』に基づいた小論であり、写本に見られる図も、『アルマゲスト』のものとほとんど同じであることがわかった。 最後に、9世紀の天文学者アル=ファルガーニーの「天文学綱要」に対するアル=カビースィーによる注釈については、ひとつしかないアラビア語写本(Istanbul, Ayasofya 4832)の状態が悪く、校訂作業を十分に進めることができなかった。しかし、基本的なテキストはすでにコンピュータに打ち込んであり、今後別の資料などを利用することによって、完成にいたることを期待したい。またアル=ファルガーニーの著作自体も写本によってバリエーションが大きく、アル=カビースィーの注釈以前に、まずアル=ファルガーニーの著作の校訂を行なう必要性が出てきた。
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