ステロール類はどの食物にも含まれ、グリセリドや脂肪酸と比べ安定であるため、ステロール分析から古代人の食生活を検討できる可能性がある。そこで平成15年度年度はステロール類を効率よく分析する方法を確立し、縄文土器(加曽利E式)の浅鉢の土器片に残留したステロール類、特に主に動物に含まれるコレステロール及び、植物性のスチグマステロール、カンペステロール、β-シトステロールの残存を調べた。本年度は、昨年度分析した浅鉢と同じ発掘現場から採取した同年代の深鉢の表面(表面)と深部の中心部(深部)に残留するステロール類の分析を行った。考古学的には浅鉢は食物を盛る為に、深鉢は煮炊きをする為に用いられたとされており、土器の用途とステロール類の残存との関連を検討した。 浅鉢と深鉢に残存していたステロール類には多くの共通した傾向が認められたが、差違として特に底部の残存量が上げられる。浅鉢底部は他の部位の土器片と異なり、表面回収総ステロールが深部より10倍以上多く残存していた。さらに、土器の他の部位の表面のみを比較しても、口縁部、胴部の平均より25倍以上多く残存し、水漏れ等を防ぐために土器底部に外側から脂質を塗り込めた可能性を示唆している。一方、深鉢の底部は他の部位と同様に表面のステロール残存量が深部より少ないだけでなく、表面と深部を合わせた総ステロール量に対する表面残存量の割合が他の試料に比べ低いのが特徴である。調理などをする際の熱による分解や水を加えることによる浸出作用などの影響が考えられる。
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