縄文文化の彩色土器は、土器製作に加えて、漆などに代表される膠着材や赤色顔料などの素材や工程に関わる技術を体系的に具現化したものである。 本研究では、彩色土器から得られた微小片をもとにして、その構造や材質などに関わる製作技法を明らかにすることを目的に調査を進めた。具体的には、(a)素地=胎としての土器製作技法、(b)彩色前処理としての下地作り及び下地調整方法、(c)塗膜中における漆などの膠着材や赤色顔料などの素材、(d)塗膜層の構成などに注目して、彩色土器製作に関わる技術的な特質などを実証的に検討することを試みた。本研究によって、以下のような知見を得たので、今後さらに復元的研究を進めるための基礎としたい。 (1)彩色材料として、朱、ベンガラ(パイプ状、その他)などが使い分けられて用いられていた。 (2)彩色の各部位とその方法との対応関係については、(1)沈線部などの凹部において重ね塗りされることが多用される一方で、(2)平滑部の彩色については全ての試料において、"ベンガラ漆塗り"あるいは"朱漆"による1回塗りが行われていることを確認した。 (3)赤彩土器の一部には、赤彩を施す前の事前調整として、"磨き"による表面の平滑化と、還元炎条件下における土器焼成による"黒色化処理"が行われる事例を確認した。 (4)土器彩色材料の必要量について、顕微鏡観察結果による膜厚の知見に基づいて試算した。その結果から、漆、顔料(朱)、朱漆ともにごく僅かな量によって、全面塗彩も可能であることを確認した。
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