中央ヨーロッパにおける地域間格差の拡大メカニズムを明らかにするために、本年度は、かつてのオーストリア・ハンガリー帝国領内の保養地をはじめ、とくにハンガリーにおいて経済的に活性化している地域の動向について、その歴史的背景を重視しながら観察した。その際、既存のセンサスデータをはじめ、景観観察や住民への聞き取り調査を行った。成果として得られた結果を、以下に列記する。 1.中央ヨーロッパにおける地域間格差が、近年ますます拡大しつつあることを指摘し、その背景として、近代化以降の歴史的な経緯を概観した。とくに都市と農村の格差の拡大が、この地域における地域間格差の拡大において重要であることを指摘した。 2.保養地を含む地域の変化の仕方が、中央ヨーロッパにおける近代化の過程で著しく異なることを明らかにした。具体的には、アルプス山岳地の3つの集落に居住する住民の死因に着目し、その変化と集落の社会経済的な変化との対応関係を検証した。 3.近代化以降の地域間格差の拡大にとって、とくにエスニック集団が重要な役割を果たしていると考え、ハンガリーにおけるドイツ系住民を事例にし、かれらの組織的な活動が地域の経済的、社会的変化に重要な役割を果たしていることを明らかにした。 4.中央ヨーロッパにおける地域間格差の拡大と、エスニック集団とのかかわりを論じるにあたり、エスニック集団に固有の文化が果たす意味についての論考を行った。 これらを踏まえて、次年度には、近代化のプロセスと地域変化との対応を検証するために、保養地をはじめとする観光活動に重点を置いた調査を行う。
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