中央ヨーロッパにおける地域間格差の拡大メカニズムを明らかにするために、本年度は、かつてのオーストリア・ハンガリー帝国領内の保養地をはじめ、とくにハンガリーにおいて経済的に活性化している地域の動向について、その歴史的背景を重視しながら観察した。その際、既存のセンサスデータをはじめ、景観観察や住民への聞き取り調査を行った。成果として得られた結果として、以下4つの著作および論文を作成した。 1.「オーストリア・ハンガリー帝国における保養地の地域的概観」では、19世紀から20世紀初頭にかけて形成された中央ヨーロッパの保養地が、人口規模が小さいながら中心地としての機能をもっていた点で地域間格差の拡大過程において注目すべき事象であることを論じた。 2.「ハプスブルク帝国の温泉地を巡る」では、中央ヨーロッパの温泉保養地の特徴を概観した。 3.「民族が織りなすドナウ川文化圏」では、中央ヨーロッパの多民族性がこの地域のイメージ形成にかかわってきたこと、それゆえにヨーロッパの中でも特色ある地域として位置づけられてきた点を指摘した。 4.「ロマ民族をみる視角-東ヨーロッパという土壌」では、中央ヨーロッパにおける地域間格差がロマ民族の居住地と対応する点に焦点を当て、民族集団と地域間格差の関連性について、過去から現在、さらにはEU拡大にともなう将来の変化にまで論考を広げた。 中央ヨーロッパの地域的な特色を解明する切り口は多々存在する。今後もフィールドワークに基づいた事例研究を蓄積していくとともに、多様な研究領域の視点を総合した研究の枠組みについても検討したいと考えている。
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