都市空間におけるさまざまなサービス施設(職場、教育、医療、アメニティなど)への近接性の地域的不均等を解決するために、従来の線形的な距離概念に代わって、スケールに依存した距離の見方をもつマルチレベル・モデリングのアプローチを採用して、多様な交通・通信手段の結合、社会集団の多様な属性を考慮した近接性概念を作り上げ、その有効性を都市空間のサービス施設への利用可能性の研究から明らかにすることを目的としている。 この目的のもとで、1年目には、近現代における交通・通信の技術革新に関する複雑系図書を読み、交通・通信の地域的不均等発展について概観した。また、GISによるマルチスケールの地図表示の可能性と、統計処理パッケージによるマルチスケール分析の可能性について、仮想的な数値例に基づいて検討してみた。この間に、立地論研究者やGIS研究者との研究交流を通じて、マルチレベルの近接性の地図化の可能性について議論した。その結果を、今年度3月の九州大学でのシンポジウム「社会理論と現代地理学」において報告した。その内容は、近接性という概念が、場所の近接性から個人の近接性へと非集計化されるべきであること、さらにスケールに依存した距離概念とGISによる距離概念のズレを検討しなくてはならないこと、IT時代における交通・通信の相互補完、相互強化関係について理論的な考察を進めるべきであること、以上であった。
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