研究概要 |
本研究の目的は,日本と韓国の社会問題化した大規模干拓事業を取り上げ,それをめぐり展開される環境問題論争を分析し,それぞれの国において,いかに問題が構築されるのか,その際にいかなる利害関係,地域的背景が関わっているのかを明らかにすることである。研究の結果として以下がわかった。 1.韓国においてセマングム干拓事業という大規模な事業が進められており,大きな社会問題になっている。この事業は韓国南西海岸開発の一環と位置づけられるが,規模が大きく環境への影響が甚大なことが懸念されている。特に先行したシファ干拓が環境悪化により断念されて以降,セマングムでの環境悪化への懸念が国民的関心を集めるようになった。 2.韓国においては,民主化運動を経て,市民運動の影響力が強く,環境運動も例外でない。セマングム問題も中央の環境団体によって反対運動が主導されることにより大きな社会問題となった。 3.一方,韓国では道による経済格差が大きく,セマングム開発が計画される全羅北道は後進地域にあたり,道民の開発志向が強く,セマングム問題は全国的な環境問題への関心と地方的な経済開発への関心という次元の異なる論点からの議論が錯綜する中に成立している。 4.ただ,全羅北道の中にあっても干潟との関わりの深かった漁村では事業に反対する活動がある。これらは道をあげての推進運動の中で孤立した存在となり,中央の環境団体と結びつくことによって,その立場をアピールし続けている。しかし,この1,2年の状況の変化により,孤立化が深まっているように見受けられる。 5.セマングムの事例をみるにつけ,諫早湾や中海・宍道湖のような日本の干拓問題との類似点(問題の社会経済的背景や公共事業システム)が強く認識されるとともに,環境運動の性格や進められ方にみる両国の相違点,特に日本の環境運動の独特な性格について気づくことができた。
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