研究課題
年輪年代学で作成される標準年輪曲線は、年代測定の道具として使用されるだけでなく、気候復元や森林生態系の変動の解明など古環境学へ応用されている。得られる古環境の情報は、環境考古学的な文脈でも非常に重要となっている。年輪年代学の世界的な動向を考慮して、環境変動を大域的・地域的なものに統計的に分離して、復元精度を向上させる必要がある。本研究では、現有の現生木標準年輪曲線(AD1650〜)を空間的に拡充し、本州中部域での、過去1000年間の気候の復元を目指している。さらに、この結果を、気象観測データや他の代理データと比較することで妥当性を検証し、時系列解析及びスペクトル解析などの手法を用いて、気候変動の10年から数十年変動成分を明らかにする。平成15年度には試料の収集及び標準年輪曲線の作成と延長を重点的に行なった。年輪試料に関する現地調査を行い、既存の標準年輪曲線の作成に加えて、さらに調査地域を拡大して、木曽ヒノキ林分布の全域から現生木(伐採年代既知)について標高別に試料を約30〜40個体ずつ採取した。また埋没木試料を278個体収集した。1μmの精度で年輪幅を測定し、クロスデーティングにより、林分ごとに国際基準(20個体2方向以上)を十分に満たす標準年輪曲線と埋没木標準年輪曲線を作成した。試料点数の充実により、年輪曲線がカバーする年代範囲の拡張と年輪曲線の統計学的な信頼性の確保が達成できた。その結果、本研究を申請した時点で想定していた過去千年を超える奈良時代までをカバーする埋没木標準年輪曲線が得られた。現在は、平成16年度年度以降の研究の進展に向けて、埋没木と現生木をつなぐ試料群の探索とデータ解析方法の検討を行っており、既に予備的な気候復元に着手した。
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