1 バイカル湖中央アカデミシャン湖嶺より得たBDP98長柱状堆積物試料のうち、100-200m分中の光合成色素の分析結果につき、昨年度行った0-100m分と併せ、約500万年にわたるその分布の変化について解析を行った。クロロフィル(Chl)由来のステリルクロリンエステル(SCEs)が事実上唯一の残留光合成色素であり、植物プランクトン(藻類)が種類によらず保有するChl a由来のSCEs aが数百万年にわたるバイカル湖内一次生産変遷の指標となること、Chl b由来のSCEs bが緑藻の、C_<30>-ステロール-SCE aが渦鞭毛藻の指標として利用できることを明らかにした。SCEs aの変動における極小期は、北半球に氷床の発達した海洋酸素同位体ステージ(MIS)の偶数期によく対応しており、地球規模の気候変動がバイカル湖一次生産を支配する主要因であることを実証した。また緑藻と渦鞭毛藻の割合が顕著に大きくなる時期がそれぞれバイカル湖域の約260万年前と150万年前の寒冷期に対応し、珪藻種の組成の激変期にも対応することを示した。 2 氷期/後氷期の遷移に伴う湖内一次生産の増加については、先にバイカル湖において明らかにしたが、バイカル湖集水域に属するフブスグル湖においても堆積中の光合成色素の分布から実証できた。 3 実験室において甲殻類を藻類で飼育し、排出される糞中のSCEsと藻類のステロール組成の関係、SCEs中のコレステロールの優占を明らかにし、湖沼堆積物中のSCE組成の解明に有用な知見を得た。 4 浜名湖堆積物中に残存する藻類由来のカロテノイドとSCEs中のステロールの詳細な解析によって、光合成色素の堆積物中の保存に、藻類の捕食によって動物プランクトンの糞中に移行堆積した色素が大きく寄与していることを明らかにした。
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