研究概要 |
海洋物質循環を解明するためには,海水中の元素毎の分布を知るとともに,それらの元素間における分布のシステマティズムを明らかにすることが重要である.最近筆者等による北太平洋亜寒帯域におけるバリウムの分布に関する研究によって,バリウムとケイ酸塩/硝酸塩比(Ba-Si/Nダイヤグラム)との間には直線関係が成り立つことが初めて見いだされた.そこで本研究においては,このようなバリウムと栄養塩類の分布におけるシステマティズムが海洋全体でも成立するか否かについて検証し,海洋の動的構造に依存するバリウムの循環を化学海洋学的に理解する方法を開発する. 本年度における研究実績は平成14年度研究実施計画に沿ってほぼ達成された. (1)南太平洋西部海域 東京大学海洋研究所「白鳳丸」航海によるメラネシア諸島域海盆群およびタスマニア海南北縦断測線において各層に採取された約150試料を分析した(1992年試料採取).この海域は,上層から深層に南極中層水,北太平洋深層水,それに南極底層水の重畳構造を成す.タスマニア海では深度2000-2500m層の上層に北太平洋深層水,下層に南極底層水が存在し,バリウムおよび栄養塩の鉛直分布はこの層を挟んで典型的な不連続面を示す.しかしながら,Ba-Si/Nダイヤグラム上では,両者は直線関係を示し,その直線の傾きは北太平洋亜寒帯域における値とほぼ同一であることがわかった. (2)本州南岸沿岸域から黒潮域 東海大学海洋学部「望星丸」航海によって,駿河湾,伊勢湾,瀬戸内海,および四国海盆黒潮流域を含む亜熱帯海域から採取した表層水および各層海水試料の約200試料を分析した(2000-2003年試料採取). 沿岸や内海海域では表層水中のバリウム濃度は外洋域のそれと較べて高濃度であった.これは岩石起源であるアルカリ土類元素としてのバリウムの特徴を反映している.伊勢湾および瀬戸内海の表層水中のバリウムは塩分と逆相関で,かつケイ酸塩とは正の相関関係を示し,典型的な混合希釈の関係で表層水中に分布することがわかった. 一方,黒潮流域から亜熱帯海域においては,深度に伴う漸次増加の分布を示した.また,Ba-Si/Nダイヤグラムを用いた解析では,バリウムは上層の北太平洋中層水と深層の太平洋深層水の混合によって分布が支配されていること,その直線の傾きは北太平洋亜寒帯域における値とほぼ同一であることがわかった. 以上の結果と解析によって,外洋域におけるバリウムと栄養塩の分布間におけるシステマテイズム(Ba-Si/Nダイヤグラム上で両者プロットが直線関係を示す)は広く認められる事実であると考えられる.
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