研究概要 |
本研究の目的は、(1)植物プランクトンによる基礎生産有機物の変質過程と溶存態有機物(DOM)の生成過程における細菌類の役割と寄与を解析・評価すること、および(2)難分解性溶存態有機物(R-DOM)の生成機構を解明して海洋炭素循環におけるその炭素シンクとしての機能を評価することである。そのために、(1)^<13>Cをトレーサーにした植物プランクトン群集の培養実験を行い、基礎生産有機物の溶存化とDOMの分解過程を元素および分子レベルでGCとGC/MSによって解析した。さらに、(2)^<13>C-標識グルコースを基質に用いたバクテリア群集の培養実験を行い、バクテリアにより生産される有機分子のDOMへの溶存化と長期に亘って残存する過程を、D-アミノ酸の消長とD-,L-アミノ酸比(D/L比)を指標にして、^<13>C-トレーサー法とGC/MS法により追跡して解析・考察した。 その結果、(1)植物プランクトンによる基礎生産有機物はほとんど数時間〜数週間で速やかに分解される、(2)残存するDOMは生物には利用され難く相対的に低分子化している、(3)D-アミノ酸はバクテリアによって生産され、DOM中のそれは相対的に残存する傾向が大きい、などが明らかとなり、DOMの生成に対するバクテリアの直接的関与が始めて実証された。これらの知見は、(1)バクテリアが有機物の単なる分解者としてだけではなく、DOMの生産者特に易分解性DOMから難分解性DOMへ変換する生産者としての役割も果たしていること、(2)海洋のDOMは大部分難分解性(R-DOM)であり、地球温暖化に関連した炭素隔離の機能を持つ重要なリザーバーであること、したがって海洋の物質循環におけるその役割は極めて大きく、その生産過程特にR-DOMへの変換過程で果たしているバクテリアの役割は極めて大きいこと、などを強く示唆している。
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