研究概要 |
海氷流出の履歴を1950年代まで溯り,流出機構の考察を進めた.研究対象としたリュツォ・ホルム湾南部(湾奥)では白瀬氷河が流入している.この氷河の浮氷舌の動態が同湾内の氷状変化,特に流出発生の有無を反映していることに着目して,高分解能衛星画像も解析に加えた.過去50年間の氷状変化について次の知見を得た.1950-70年代の約30年間は氷河浮氷舌が比較的長く伸びていたことから(最長で約75km),湾奥部に達する広域の海氷流出は発生しなかった.一方,1980年から2004年までの最近の25年間では,同湾で頻発する広域流出のために,浮氷舌は伸長せず,最長でも20数kmに止まった.定着氷の安定/不安定状態が数年〜10数年の周期で生じていることや,最近は不安定な状態が持続していることもわかった.氷河浮氷舌の長期変動と沿岸海氷消長との関係には,棚氷の不安定性と沖合流氷分布との関連に類似する物理機構が内在する可能性があることから,棚氷の急変に関しても有益な結果である. 海氷流出の一因である地上風系について,流出発生年と南風の平年偏差との関係を時系列的に調べた.1980年以降の月別風向頻度の年々変化から,高頻度で吹いた年と流出発生年とが符合していることが示された.南風は割れた氷盤の沖合(北方)への輸送や定着氷縁の海氷密接度低下に寄与している.風や気温,降雪を含めた大気場の長期変化について気候学的にアプローチする必要性が示された.以上の知見と前年度までの成果をもとに,リュツォ・ホルム湾とその周辺海域の海氷変動の特性,定着氷流出機構解明に関して行なった3か年の研究を総括した.沿岸海氷の安定/不安定性に及ぼす大気環境の効果については未だ定性的な解釈に止まる点がある.大気の変動機構を理解すると共に,外洋から湾内へ進入するうねりの力学的な効果を含めた大気-海洋-海氷系変動の評価が必要である.
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