研究概要 |
1999年〜2002年に北極のスピッツベルゲン島および南極のキングジョージ島から分離されたピシウム属菌の代表株について,リボソームDNA(rDNA)の5.8S領域を含むinternal transcribed spacer(ITS)領域のPCR-RFLPと,同領域の塩基配列を調べた。その結果,スピッツベルゲン島には,種レベルで異なる5つのグループのピシウム属菌が生息していること,また,その内,本研究で新種として類別された2つのグループは,同島とキングジョージ島の地域に分布することが明らかになった。このように極地に広く分布するピシウム属菌は,試験管内での実験でカギハイゴケに対する病原性を有すること,また,培地上での菌糸生育適温が22〜28℃であることが既に明らかになっている。これらのことから,温暖化によってこれらの土壌伝染性病原菌が活性化し,極地の重要な1次生産者であるコケの生育に影響を及ぼす可能性が示唆された。 次に,極地のカギハイゴケに生息しているピシウム属菌の動態に及ぼす温暖化の影響を明らかにするため,2003年7月にスピッツベルゲン島に滞在し,初年度の実験として以下を行った。まず,褐変などの変化が見られない健全なカギハイゴケ群落に,15cm四方の正方形の区画を設定け,群落表面の年間平均温度を1℃程度上昇させるために,強化ガラス製のオープントップチャンバーを設置した。また,その隣にチャンバーを設置しない同じ大きさの区を設けた。それぞれの区画から,カギハイゴケの茎葉を無作為に抜き取って培地を用いてで糸状菌を分離し,感染率を調べた。さらに,区画内の年間の温度変化をモニタリングするため,温度記録計を設置した。実験は3反復で行った。その結果,チャンバー設置前の健全なカギハイゴケ群落には,3.7〜13.0%の分離頻度でピシウム属菌が生息していることが明らかになった。
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