研究概要 |
ダム問題開発のもたらす環境問題が深刻化かつ国際化する中で,世界ダム委員会(WCD)が,1998年に設置された。目的は,「大型ダムプロジェクトの計画,評価,設計,建築,運用,監督に関する国際的に受容可能な基準を開発し普及する」ことであった。膨大な情報に基づいて分析,討議が行なわれ,世界各地で多数の参加を得たフォーラムが開催され,多くの意見を集めた。最終報告書である『ダムと開発』は2000年11月に公表され,同時にWCDは解散した。 『ダムと開発』はNGOから好意的に評価はされたが,ダム建設業界や開発途上国政府は否定的であった。WCDの立ち上げに中心的役割を果たした世界銀行も,『ダムと開発』をもとにして政策変更をすることはないという姿勢を鮮明にした。『ダムと開発』に示されたWCD勧告には技術的問題点が残されており,提案された基準とガイドラインを現在の形で達成することは不可能であると考えられたからである。 今年度の研究においては,まず,開発援助機関の視点からWCDが提案する基準とガイドラインの実現可能性について精査した。そして,核心価値と戦略優先事項を達成するために必要な措置として,戦略優先事項,基準,ガイドラインなどの位置づけと性格を明確にしなければならないことを指摘した。 続いて,ダム開発に円借款を供与する際のWCD勧告の実行可能性について検討した。実施機関である国際協力銀行にダム開発計画への円借款供与が要請される場合,プロジェクトサイクルは通常,WCDが提示する5つの重要な意思決定段階の2番目まで終了している。すなわち,JBICはWCD勧告を実施したくても制度上,関与できない段階がある。WCD勧告には技術的問題点以外にも,このような制度上の問題があることを指摘した。
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