研究概要 |
沖縄の嘉手納飛行場周辺の音環境は破壊が著しいが、国の移転促進措置にもかかわらず、なにゆえに住民が居住しつづけるのかを沖縄県北谷町砂辺区をフィールドとして調査した。まず航空機音の現状とそれによる住民健康影響に関して、筆者が参画した疫学調査の結果として記述し、そに相応する住民の証言を得た。次に住民の意識をさぐるため、コミュニティ・ライフヒストリー調査を実施した。具体的には、沖縄の歴史を概観し、砂辺区の歴史を諸資料を渉猟して取りまとめ,北谷町砂辺区の住民12名のライフヒストリーを聞いた。その結果以下のことが明かとなった。1)航空機騒音による生活への障害は甚大で、航空機騒音を聞いたときに本土に虐げられてきた沖縄の歴史や砂辺の歴史を想起する。2)航空機騒音ゆえに、一部の住民がすでに転出しているが、転出そのものがさまざまな問題をかかえていて、出るも地獄残るも地獄の状況が生まれている。3)残っている者は伝統行事を守り、地霊を敬うことを重視している。4)砂辺集落の環境が悪化しつつある。5)国の防衛施設周辺対策事業も国有地の点在によって阻害される。6)訴訟の提起も、結局は損害賠償の支払いに終わり、騒音防止には役立たない、との失望に終わった。また、新東京国際空港(成田)の暫定滑走路が供用開始されたので、住民意識を調査することで嘉手納飛行場周辺と比較できると考え、その周辺において航空機騒音の影響に関する疫学調査を実施した。静かだった環境が急に航空機騒音曝露地区になったため、成田空港周辺の住民の反応率は嘉手納周辺よりも概して高率であった。新たな環境破壊に対して住民がどのような反応をするのかを知る上で貴重な事例になると目される。
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