研究概要 |
放射線や細胞代謝などで生じる活性酸素がDNAを酸化すると,発がんや老化の原因となる。本研究は,これまで見つけてきた酸化塩基損傷に働く新規ヒトDNAグリコシラーゼ酵素の解析が目的である。放射線などで生じるメジャーな損傷にはthymine glycol(Tg)・8-oxoguanine(8oxoG).・formamidopyrimidine(Fapy)がある。このうちTgを修復する主要なグリコシラーゼとしてNTH1が知られていたが,NTH1欠損マウス細胞から,残存するTgグリコシラーゼ活性として遺伝子未同定のTGG2と大腸菌NEIに相同性を示すNEIL1がみつかってきた。 TGG2酵素活性をNTH1欠損マウスから精製して遺伝子の同定を目指しているが、精製に伴う酵素の失活などにより現在のところ成功に至っていない。一方,NEIL1はTgや8oxoGの修復を担うことが分ってきた。NEIL1には他に二種類のパラログ(NEIL2,NEIL3)がみつかっているが,特にNEIL3についての酵素活性や修復機能はまったく分っていなかった。そこで平成15年度はこのNEIL3の機能解析を集中的に進め,NEIL3がある種の酸化塩基損傷に働くグリコシラーゼとして働くことをin vitro, in vivoの両面から捉えることに成功した。具体的には,組み換えNEIL3が一本鎖特異的にFapyグリコシラーゼとして働くことや,NTHとNEIを欠損する大腸菌に導入すると過酸化水素に耐性になること,更にNEIL3-GFP蛋白質がヒト細胞内でDNA塩基損傷部位に集積することなどの結果を得た。 次年度では,修復酵素としての特徴が見えてきたNEIL3の詳細な解析と,その細胞内における酸化塩基損傷修復の具体的な機能解析を進め,他のグリコシラーゼとの役割分担や相互作用蛋白質の同定などを進行させる。
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