放射線や細胞の呼吸の副産物として生じる活性酸素は老化や発がんのリスクファクターとして広く認識されている。それは活性酸素がDNAを酸化し、その酸化DNAが修復を免れて蓄積したり、その結果突然変異が誘起されるからと考えられる。酸化DNAの主要な修復系は、「DNAグリコシラーゼ」の開始する塩基除去修復である。しかし、DNAグリコシラーゼがどれほど老化や発がんの抑制に寄与しているかはよくわかっていない。というのも、主要なグリコシラーゼ、OGG1やNTH1のノックアウトマウスでは顕著な表現型が現れないからである。 われわれは、バクテリア類に広く分布しているグリコシラーゼであるNei、Fpgファミリーに類似する哺乳類グリコシラーゼとしてNEIL1、NEIL2を発見し、NEIL1とNTH1の基質が互いに重複することを示してきた。更にTGG1、TGG2と名づけたグリコシラーゼの存在も生化学的に確認し、その特徴づけを行ってきた。TGG1、TGG2の遺伝子の同定には至らなかったが、これらが既知のグリコシラーゼとは別の分子種であることを示した。次に、第三のNei-like遺伝子であるNEIL3を単離し、このタンパク質の機能解析を進めた。その結果、NEIL3は(1)Fpg、Neiファミリーと同様にAPリアーゼの活性を持つこと、(2)その活性は一本鎖DNAに特異的であること、(3)ある種の一本鎖上の酸化損傷に対してDNAグリコシラーゼとして働くこと、等のin vitroの知見を得た。更にNEIL3の発現に組織特異性があることや、in vivoでも修復酵素としての役割があることを検証した。これらのことから、酸化DNA損傷に対する哺乳類塩基除去修復系は多様なDNAグリコシラーゼがお互いにバックアップしあうと同時に、NEIL3には特異な性質が備わることなどから、未だ知られていない修復過程がありうることも示唆した。
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