研究概要 |
本年度は,昨年度,分離同定に成功した,酵母の脱アミノ化損傷ヌクレオチドの浄化酵素dITPaseの機能解析を,酵母dITPaseの構造遺伝子を,ヒスチジン合成遺伝子HIS3または抗生物質G418抵抗性遺伝子KANMX4に置換することで,遺伝子破壊を行う,1)得られた1倍体遺伝子破壊株をもちい,Trp非要求性への復帰変異,canavanine(Can)抵抗性への前進変異をマーカーに,自然突然変異の検討を,2)さらに酵母2倍体遺伝子破壊株を用い,ヘテロにCan抵抗性変異をもつ相同染色体(CAN1^+/Δcan1)でのヘテロ喪失(Loss of Heterozygosity ; LOH)への影響などの検討を行った。 酵母1倍体細胞における自然突然変異への影響を調べた結果,dITPase欠損によるmutator phenotypeはいずれの突然変異マーカーにおいても認められず,少なくともdITPase欠損による脱アミノ化損傷ヌクレオチドの増加やDNA鎖への取り込みは一倍体細胞における点突然変異やフレームシフトとして固定されない結果が得られた。一方,2倍体細胞のLOH誘発への影響を調べた結果,dITPase欠損により野生株の20倍程度の高いLOH誘発性を示した。さらにそのLOHの原因となる染色体構造変化を調べたところ,相同染色体間でのCan抵抗性遺伝子の遺伝子転換や相同染色体間での交叉によることが明らかとなり,脱アミノ化損傷ヌクレオチドの増加が相同染色体間での組み換えの誘導に寄与することが分かった。現在,dITPase欠損による組み換え誘導の機構の詳細について,解析中である。 LOHはいわゆる遺伝的不安定性の指標の一つであると考えられ,細胞がん化の一過程としても重要視されている。本研究は,ヌクレオチド損傷が突然変異だけではなく,細胞がん化と関わる遺伝的不安定性をも誘導する可能性を示唆したはじめての報告であるといえる。
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