低線量放射線を予め照射した細胞においてみられる放射線適応応答は、その後の高線量放射線照射による致死効果を軽減するとともに、染色体異常や突然変異の生成を低下させることが明らかにされている。放射線照射された細胞の核抽出液を用いた試験管内反応系を用いた解析から、放射線適応応答によりDNA鎖切断修復機構が何らかの修飾を受けていることを示唆する結果を得た。従って、放射線適応応答の少なくとも一部にはDNA2本鎖切断の修復が関与している可能性が考えられる。この点をさらに明らかにするために、細胞内遺伝子の突然変異スペクトルの解析を行った。マウスm5S細胞に放射線を照射し、6チオグアニン(6TG)抵抗性を指標としてHprt遺伝子に生じる突然変異頻度を検討したところ、予め2cGy照射後6Gy照射したcultureの突然変異頻度は、前照射なしに6Gy照射したcultureの突然変異頻度に比べてほぼ1桁低かった。これまでに、Hprt遺伝子の欠失突然変異スペクトルに相違が見出されたので、Hprt遺伝子周辺の欠失を検討したが、2cGy前照射後6Gy照射した細胞から得た突然変異体では、前照射なしに6Gy照射した細胞から得た突然変異体に比べて、大きな違いは見られなかった。一方、放射線誘発突然変異では、Hprt遺伝子の発現が無い変異体が多数見られたが、自然突然変異体では全ての変異体でHprt遺伝子の発現が見られた。これは、放射線誘発突然変異生成の新しい機構を示唆するとともに、このことが、放射線適応応答での突然変異頻度の修飾に関係している可能性があると考えられる。
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