ダイオキシンは強力な慢性毒性・催奇形性・発ガン性をもち、大気中に安定に蓄積していることが大きな環境問題になっている。細胞内に入ったダイオキシンは、転写調節因子の一種であるダイオキシン受容体Ahrに結合し、類似の分子Arntと結合して転写調節因子として働くことが知られるが、細胞死・奇形・癌形成時に機能する分子メカニズムや、毒性作用を回避するために有効な代謝経路など、生体内での防御・分解に通じる機構は未だ十分に解明されていない。申請者らは遺伝学上優れた材料であるショウジョウバエを用い、ダイオキシン受容体ホモログであるSpinelessの異所的活性化が強度の細胞死誘導能をもつことを見出した(印刷中)。この性質を利用して、上記の視点からダイオキシン作用機作を究明している。この中で本研究では、以下の3つを本研究の目的とした。 1.Spinelessが惹き起こす細胞死の性質の把握と細胞死誘導経路の解明。 2.環境ストレス応答性情報伝達因子JNKのSpineless作用に対する修飾に関する研究。 3.Spinelessと遺伝的相互作用する突然変異体の解析に基づく作用経路の解明。 1.翅におけるSpinelessの異所的活性化は、Distal-lessの作用によって異所的な肢形成を促し、その結果アポトーシスが誘発されることがわかった。また、アポトーシスを惹き起こすには、新たなLRRファミリータンパク質Fish-lipsを介した周辺細胞との相互作用が失われることが必要であることが明らかになった。 2.Spineless活性化による影響は、JNKの支配を強く受けながら進行することが昨年度までに判明していたが、この支配は細胞死誘導に関してのみであり、器官転換や細胞の親和性形成については、効果を及ぼしていないことがわかった。 3.新たに誘発した、Spinelessの抑圧突然変異体を解析中である。
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