ダイオキシンは強力な慢性毒性・催奇形性・発ガン性をもち、大気中に安定に蓄積していることが大きな環境問題となっている。細胞内に入ったダイオキシンは、転写調節因子の一種であるダイオキシン受容体Ahrに結合し、類似の分子Arntと結合して働くことが知られるが、細胞死・奇形・癌形成時に機能する分子メカニズムや、毒性作用回に有効な代謝経路など、生体内での防御・分解に通じる機構は十分に解明されていない。申請者らは遺伝学上優れた材料であるショウジョウバエを用い、AhrのホモログであるSpinelessの異所的活性化が細胞死を導くことを見出した。これを端緒として本研究では以下の3点を目的とした。 1.Spinelessが惹き起こす細胞死の性質解明。 2.環境ストレス応答性情報伝達因子JNKのSpineless作用に対する修飾。 3.Spinelessと関連する突然変異体の解析に基づく作用経路の解明。 1.翅におけるSpinelessの異所的活性化は、Distal-lessを介した器官転換を促し、その結果アポトーシスを導くことがわかった。またアポトーシスに先立ち、LRRファミリー膜タンパク質Fish-lipsを介した周辺細胞との相互作用が失われることが判明した(Adachi-Yamada et al. 2005)。 2.Spineless活性化に対するJNKの影響は、専ら細胞死誘導に関してのみであり、器官転換や細胞の親和性形成については、効果を及ぼさないことがわかった。 3.Spineless過剰発現による細胞死を抑圧する突然変異体、Suppressor of spineless-1をエックス線照射により単離した。この変異体は致死突然変異であるほか、Spineless過剰発現だけではなく様々なシグナル系の不全に由来する異常形態を緩和した。現在原因遺伝子を同定する作業を進めている。
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