研究概要 |
本研究では、マウス、ハムスター、ラット、モルモットに2,2',4',5,5'-pentachlorobiphenyl(PentaCB)、2、2'、3'、4'、5、6-hexachlorobiphenyl(HexaCB)及びKanechlor-500(KC500)を投与する時、血清中総サイロキシン(T_4)、総トリョードサイロニン濃度の低下、血清中T_4とトランスサイレチン(TTR)との結合率、肝ミクロソームのCYP1A、CYP2B、CYP3A、UGT1A1、UGT1A6、UGT2B1の誘導、胆汁中T_4のグルクロン酸抱合体の排泄量及び各PCBのメチルスルホン(MeSO_2)体あるいは水酸化(OH)体への代謝能に動物種差があることを明らかにした。また、4種の動物にPentaCB、HexaCB及びKC500を投与する時、血清中T_4濃度の低下には、甲状腺への直接作用、従来報告されてきた肝臓のT_4-グルクロン酸転移酵素(T_4-UDP-GT)、I型ヨードサイロニン脱ヨード化酵素、CYP1A、CYP2B及びCYP3Aの誘導、あるいはMeSO_2代謝物の作用が関与する可能性は低く、別の作用機序が関わる可能性を示唆した。次いで、UGT1A1、UGT1A6の発現やT_4-UDP-GT活性の上昇が見られないGunnラットにおいても、PCB投与により血清中T_4濃度の低下が惹起することを明らかにし、この低下は肝臓のT_4-UDP-GT活性には依存していないことを示した。このことから、Wistar系ラットにPentaCB及びKC500を投与した時の血清中T_4濃度の低下もまた、少なくとも一部T_4-UDP-GT非依存的な機序により起こっている可能性を示唆した。すなわち、これまでPCBによる血清中T_4濃度の低下は、主に肝臓のT_4-UDP-GTの誘導が主因と報告されてきたが、この酵素誘導は、単にひとつの要因であるに過ぎないことを明らかにした。さらに、検討した4種の動物において、PCB投与による血清中T_4濃度の低下は、T_4の肝臓への移行量の増加に起因していることを明らかにした。さらに、T_4の肝臓への移行量の増加には、肝肥大とともに、血中T_4とTTRとの結合率の低下、肝臓における特定の甲状腺ホルモントランスポーター(LAT1及びOatp2など)の発現量の増加が関与している可能性を示唆した。
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