研究概要 |
ポストハーベスト農薬であるチアベンダゾール(TBZ)が、それ自体には変異原性はないが、近紫外光(波長320nm以上のUVA)の照射で強力な変異原性を示すようになることを見出した。この変異原性の発現機構を明らかにすることを目的に、DNA損傷に対する修復機構を欠損させた種々の変異株(uvrA, ada, ogt, mutM, mutY, soxRS, umuC)を用いて比較し、次のような結果を得た。(1)DNAの酸化的損傷に関与する修復遺伝子の欠損変異株で突然変異の増強が見られなかった。(2)アルキル化損傷の修復遺伝子の欠損株でも変化は見られなかった。(3)ヌクレオチド除去修復の欠損株で強い変異原性が見られたが、保持株では変異誘発が抑制された。(4)損傷乗り越え修復を行うDNAポリメラーゼVの欠損株では変異誘発が見られず、同様な活性をもつDNAポリメラーゼRIの導入で変異誘発が増強された。 次に筆者らの開発した大腸菌WP3101P〜WP3106P株を用いて、TBZのUVA照射で生じる突然変異のスペクトルを解析した。G:C→A:T変異およびA:T→T:A変異が最も多く誘発され、活性酸素で誘発されるタイプのG:C→T:A変異の誘発は特に著しい頻度ではなかった。また、G:C塩基対をターゲットにした変異よりもA:T塩基対をターゲットにした変異の誘発が顕著であった。 あらかじめUVA照射したTBZで菌を処理しても変異原性は見られないことから、光活性化されたTBZは不安定なものと考えられた。また、UVA照射時にカタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)を添加しても変異が抑制されることはなかった。活性酸素消去剤のヒスチジン、マンニトールの添加による影響も見られなかった。 以上の結果から、TBZの光活性化機構においては活性酸素の関与は少ないものと思われ、DNA付加体が生じているものと推定された。
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