ポストハーベスト農薬であるチアベンダゾール(TBZ)が、それ自体には変異原性はないが、近紫外光(波長320nm以上のUVA)の照射で強力な変異原性を示すようになることを見出した。この光変異原性の発現機構を明らかにすることを目的に研究を行った。 UVA照射時にアルブミン、DNA、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)を添加しても変異が抑制されることはなかった。また活性酸素消去剤のヒスチジン、マンニトールの添加による影響も見られなかった。したがってTBZの光活性化機構においては活性酸素の関与は少ないものと思われた。一方、変異原性試験において汎用されている代謝活性化系(S9mix)を添加したところUVA照射したTBZの変異原性が全く見られなくなった。さらに詳細に検討した結果、光活性化されたTBZの代謝による消失ではなく、S9mixに含まれているコファクター成分の還元型NADHおよびNADPHがUVA吸収剤として働き、TBZの光活性化を阻害していることを明らかにした。また、TBZ以外の光変異原性を示す物質クロルプロマジン、アンジェリシンのUVA活性化も同様にNADHやNADPHで阻害されることを示した。 320nm付近に紫外吸収を持たない酸化型NAD^+、NADP^+を用いることで、この阻害作用を防ぐことができるため、光遺伝毒性物質のスクリーニング試験においては、酸化型NAD^+、NADP^+をコファクター成分にしたS9mixの使用が推奨される。 TBZの光変異原性について、DNA付加体の解析も行っているが、まだ結果は得られていない。一方、培養細胞における染色体異常誘発活性を調べる目的で、現在ヒトWTK1細胞を用いて検討を進めている。
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