ポストハーベスト農薬であるチアベンダゾール(TBZ)が、それ自体には変異原性はないが、近紫外光(波長320nm以上のUVA)の照射で強力な変異原性を示すようになることを見出し、その光変異原性の発現機構を明らかにすることを目的に研究を行った。前年度は微生物に対する光変異原性について明らかにした。今年度は、培養細胞におけるDNA損傷性と染色体異常誘発活性を調べる目的で、ヒト由来のWTK1細胞を用いて検討を進めた。 WTK1細胞懸濁液にTBZを添加しUVA照射して培養した。経時的に細胞を回収して、生じたDNA鎖切断の量をコメットアッセイで検索した。UVA照射なしではTBZのDNA損傷性は見られなかったが、UVA照射した場合には照射1時間後に有意なDNA損傷の増加が認められた。照射4時間後にはDNA損傷の量が著しく減少したことから、TBZ+UVAによるDNA損傷は細胞内においては効率よく修復されるものと考えられた。 さらに、染色体切断によって生じた小核をもつ赤血球細胞の出現頻度を調べることにより、染色体異常誘発性を検討した。コメットアッセイと同様の処理をしたWTK1細胞をCytochalasin-B存在下で20時間培養した。UVA照射群ではTBZの細胞毒性が強く現れたが、50-100μg/mLの用量で小核細胞の有意な増加が薄められた。以上の結果から、TBZの光遺伝毒性はヒト培養細胞においても発現することが明らかになった。
|