ポストハーベスト農薬であるチアベンダゾール(TBZ)が、それ自体には変異原性はないが、近紫外光(波長320nm以上のUVA)の照射で強力な変異原性を示すようになることを見出した。この光変異原性の発現機構を明らかにすることを目的に研究を行った。 大腸菌WP3101P〜WP3106P株を用いて、TBZのUVA照射で生じる突然変異のスペクトルを解析した。G:C→A:T変異およびA:T→T:A変異が最も多く誘発され、活性酸素で誘発されるタイプのG:C→T:A変異の誘発は特に著しい頻度ではなかった。UVA照射時にアルブミン、DNA、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼを添加しても変異が抑制されることはなかった。また活性酸素消去剤のヒスチジン、マンニトールの添加による影響も見られなかった。したがってTBZの光活性化機構においては活性酸素の関与は少ないものと思われた。一方、代謝活性化系(S9mix)を添加したところUVA照射したTBZの変異原性が全く見られなくなった。光活性化されたTBZの代謝による消失ではなく、S9mixに含まれているコファクター成分の還元型NADHおよびNADPHがUVA吸収剤として働き、TBZの光活性化を阻害していることを明らかにした。 TBZの光変異原性について、ヒトWTK1培養細胞におけるDNA損傷性および染色体異常誘発活性を調べた。TBZのUVA照射により、コメットアッセイと小核試験で陽性結果が得られ、培養細胞においてもDNA鎖の切断と染色体切断に由来すると考えられる小核の誘発が生じることを明らかにした。
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