研究概要 |
オリーブオイルに溶解した2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)を雌マウス,(ddY系)に8週間にわたり経口投与し、体内蓄積させた。投与開始から8週目に正常雄マウスと交配し、産子を得た。産子を母乳飼育し、発育過程における行動異常出現の有無を聴覚刺激反応計測装置を用い調べたところ、精子形成期または排卵開始期にほぼ一致して過敏性が出現することが明らかとなった。この過敏性は数週間以上にわたって継続することが多かった。過敏症状を示す動物の脳では、免疫組織化学的調査において脳内神経伝達物質異常が認められた。また、ロングエバンス系ラットに致死量のダイオキシンを一回投与したあと、免疫組織化学法を用いてチオニン-エンケファリン(met-Enk)の脳内変化を調査した。投与後3日目以降、扁桃体中心核、海馬CA3、室傍核、内側視索前核、前交連後脚間質核、淡蒼球外節、淡蒼球腹側部、分界条床核外側部において、met-Enk陽性細胞、陽性線維および終末の密度が増加した。さらに、視床下部一酸化窒素合成酵素(nNOS)およびNADPH-diaphorase発現に及ぼす影響について調査を行った。TCDDの投与1週間および2週間後の脳をウエスタンブロット法によって調べたところ、視床下部のnNOSの免疫活性が著しく低下していた。またNADPH-diaphorase組織化学法標本では、視床下部外側野、室傍核、脳弓周囲核において著しいNADPH-diaphorase陽性細胞数減少が観察された。これにより、TCDD投与によって脳内met-Enkのアップレギュレーション、および視床下部の一酸化窒素産生量低下が起こることが明らかとなった。これらのことは、ダイオキシン暴露による体温異常および摂食異常の脳内機序に関係している可能性がある。
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