研究概要 |
本研究の発端はベンゼンの造血毒性が、アリールハイドロカーボン受容体(AhR)をノックアウト(AhR-Ko)したマウスで観察されないことの発見(Toxicol Sci,2002)に基づいている。この現象の背景機序を明らかにするために、昨年度の予備的検討により示唆された、AhR特異的造血毒性が骨髄における造血幹細胞に特異的な造血毒性発現機構に基づいていることを明らかにする方針で研究を進めた。 すなわち、これまでの結果はベンゼンによる造血毒性が、ベンゼン代謝物によって誘発されることを支持しているので、まず造血毒性誘発代謝産物の生成が肝臓での代謝によるものか、骨髄内でのそれによるものかを検討する目的で、致死線量照射した野生型(Wt)マウスをWtおよびAhR-KOマウスの骨髄細胞を移植し、骨髄再建マウスを作成した。これらのマウスにベンゼンを強制経口投与したところ、同移植マウスではWt骨髄再建群にみられた造血毒性のうち、骨髄細胞数や造血前駆細胞数の減少がAhR-KO骨髄再建群では回避された。一方末梢血の減少については、AhR-KO骨髄再建群での障害性緩和の程度が限局的にとどまった。これらの結果は、末梢血と造血幹細胞の障害発現機構に乖離があることを示唆する所見と考えている。こうした事象の背理的証明として、Wt骨髄細胞による骨髄再建AhR-KOマウスを用いた検討を行うべく準備を進めたが、AhRホモ欠失マウスの産生が必ずしもメンデル則に従わず、12腹から77匹のマウスを得ても野生型・ヘテロ欠失・ホモ欠失マウスの数は雄・雌でそれぞれ11・23・3;11・24・5とホモ欠失の期待値の19匹に対して8匹にとどまることがある一方、4腹から得た22匹では1・6・5;3・4・3と、期待値5匹に対して8匹得られることもあり、現在20腹での生産を開始している。これを受け手とした再建マウスを用いた結果によって、上記現象の裏付けを進めると同時に、代謝酵素群の発現変異についても検討し、当初目的の達成を目指す。
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