研究概要 |
我々は血清中活性酸素測定のためのマルチプレート法による実用的システムを確立し、放射線被ばくの影響について、原爆被爆者の生体内活性酸素産生量と炎症との関連を疾患発症の分子疫学的観点から調べた。今回開発した測定法はフェントン反応を用いて過酸化物から発生するフリーラジカルをアルキルアミンと反応させ、反応したアルキルアミンを比色法によって測定する方法である。原爆被爆者と非被爆対象者からなる成人健康調査対象集団から炎症疾患の既往歴のある人を除いて無作為に選んだ442名の血清試料を用いて活性酸素産生量を測定した。その結果、被曝線量の増加に伴い、活性酸素産生量が統計学的に有意に上昇することを見出した(1Gy当り約5%上昇,P=0.002)。この活性酸素産生量の増加は炎症性指標であるIL-6およびCRPの増加に比例していた(各々、P=0.05,P=0.0006)。また、マウス(BALB/c,C3H/HeN,C57BL/6J)に放射線を2Gy照射後、1週間から6ヶ月間経時的に血漿中の炎症関連サイトカイン(IL-6, TNF-α,IL-10, IFN-γ)を測定、さらに、照射、未照射のマウスの胸腺、脾臓、リンパ節を採取し、抗CD3抗体存在下あるいは非存在下で細胞を培養し、上清中のIL-6とTNF-α産生量と培養後の細胞中のサイトカイン遺伝子発現量をreal time PCR法により測定した。その結果、照射マウスの血中および胸腺、脾臓、リンパ節中のリンパ球数は減少していたが、照射マウスと未照射マウスの血漿中の炎症関連サイトカイン、胸腺、脾臓、リンパ節細胞中のサイトカイン量において有意な差は認められなかった。このことは、被爆者に認められている持続的炎症状態は被爆による免疫担当細胞の減少とともに、感染などの炎症の誘起が重要な役割を果たしているのかもしれない。
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