本研究の目的は、非接触原子間力顕微鏡で観測されるエネルギー散逸を、表面化学反応において表面に衝突する分子と表面の間の相互作用と比較し、微視的エネルギー散逸の反応における意味とその計測および制御の可能性を検討することにある。ここでは、並進エネルギー幅の小さい分子線を実現できる超音速分子線技術を活用し、その非弾性散乱過程と詳細に検討する。 Pt(111)表面上に吸着した炭化水素に対して非接触原子間力顕微鏡を用いて改めて計測を行い、物質によってエネルギー散逸量が異なることを確認した。形状とエネルギー散逸量、表面の仕事関数の間にクロストークが予想されたが、適切なフィードバックを行うことで問題にならないことが明らかになった。ただし、吸着種の同定には至らず条件を変えた系統的な検討を行う必要がある。 一方、分子散乱計測から定量的な情報を引き出すためには、よく規定された表面を準備することが重要である。そのため、今年度は、並進エネルギー(表面垂直成分)を500〜670meVまで高めたメタン分子線をPt(111)表面に照射することで、欠陥のない単原子層グラファイトでPt(111)表面を完全に覆い尽くせることを見いだした。エネルギーが大きい場合には、グラファイトの格子方向までも均一になることも明らかにした。目的とする計測を実施するには十分な性質を有する。さらに、このような表面に超音速エタン分子を照射し、表面で非弾性散乱したエタンの角度分布を計測し、基板となった清浄Pt(111)表面とは異なる分布が得られた。今後、さらに、散乱分子の飛行時間計測と組み合わせ、エネルギー散逸量の定量的導出を試みる予定である。
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