研究概要 |
本年度は対称型および非対称型電子供与性多座配位子(H_4L4-X,H_3L5-X;X=H,CH_3,Br,Ph)を用いて,酸化還元活性なバナジウム,マンガン,鉄イオンとの反応を重点的に検討し,そのナノ構造と物性について調べた。 非対称型配位子H_3L5-Xとバナジウムイオンとの反応から,三角錐型三核オキソバナジウム(V)錯体が生成することをX線結晶構造解析により明らかにした。この三核錯体はマンガン錯体同様内部に3Å程の空孔を有しており,小分子を取り込んで反応場として活用することが可能と思われる。錯体は-0.1V付近にV_3(V,V,V)/V_3(IV,IV,IV)に相当する3つの連続した可逆な酸化還元波を示した。これは,このバナジウム錯体が化学的もしくは電気化学的に還元可能であることを意味しており,負電荷を有する錯種の単離が期待でき,アンモニウムイオンなどの陽イオン包摂能力の向上が見込まれる。今後は,この包摂効果をアンモニア硝化や他の小分子の酸化反応への応用を研究する。 鉄(III)イオンとの反応では,類似構造の三核鉄(III)錯体の生成をX線結晶構造解析により確認した。鉄錯体においてはピリジンが配位した錯種を単離することができたため,ピラジンや4,4'-ビピリジルなどの架橋性配位子を用いて連結することで,高次のナノフレームワークを有する高分子錯体の合成が期待できる。このような高次の秩序構造を有する錯体は,ゼオライト様の特異的なナノ空間を有するため,この空間を利用したガス吸蔵や抗菌・脱臭能力の発現に向けた研究展開を行う予定である。
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