好塩菌から紫膜として精製した感光性イオンポンプ蛋白質のバクテリオロドプシンの水分散物を、電極である透明導電基板上に配向固定化し、これを光センシング電極とする人工網膜素子を作製するための研究を実施した。プロトンポンプによる電極表面pH変化が引き起こす時間微分型の光応答電流は視覚の神経細胞の与える電気信号と類似し、網膜のモデルとなる。この応答電流の強度を高めるために、Langmuir-Blodgett(LB)法による均一累積膜法、スピンコーターによる多層コーティング法を試みた。LBでは水面上の紫膜を基板上に累積する方法で固定化を行ない、本研究期間の前半では、水面の分子膜に電場と超音波振動とを同時に与える処理によって、膜のパッキングと配向を制御する成膜方法の基礎技術を構築した。さらに光電変換素子の作製においては、電解液に水性ゲルを使ってセルを擬固体化する方法を検討し、粘性のアルギン酸Naの水性ゲルを用いることで高い光電応答を与える現象を見出した。また電極にITO被覆PETフィルム電極を用い、その疎水的表面をUVオゾン処理で親水化する方法で均一な薄膜を形成することにも成功した。これらの成膜方法とセル組み立て方法に基づいて、BR固定化セルを246画素の二次元アレイとしてITOパターン電極上に組み立てて、人工網膜モデルとして246画素イメージセンサを試作した。この結果、BRの光電応答の特徴である「時間微分型応答」いわゆるモーションセンシング機能が比較的高い感度で得られることを確認できた。 本研究期間の後半では、人工網膜型センサに追加できる各種機能を検証するために、画素を配列したアレイ電極をパターニング法によって作製し、その電気信号取り出しの方法を工夫することによって、光情報を多様に演算処理ができる素子の作製を試みた。1×1mmを画素とする光素子(ITO電極、金対極、KCl電解質)の出力を、抵抗とコンデンサからなる単純なCurrent amplifierとCharge amplifierに入力し、前者では動きを示す微分応答を、後者では静止画を示す定常応答を検出する演算処理を行なった。この2つの処理を同時に行なうことによって、動画と静止画を区別して認識できる人工網膜素子を設計できることを示した。本センシングの結果はMEMSの国際学会で論文として報告した。
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